ミレーナ
避妊というと、日本においては男性主導のコンドーム装着が一般的となっていますが、女性側にも積極的な避妊方法があることをご存じでしょうか?
ミレーナは「避妊リング」とも呼ばれる、T字型をしたプラスチック製の「子宮内避妊器具」です。子宮内に装着することで、受精卵の着床を阻害する効果が最長5年間、期待できます。
同じく避妊対策として用いられる「ピル」と比べて、毎日服用する必要がなく、子宮周辺での局所作用なので血栓症リスクもありません。そのため、ピルの服用が体質的に合わない方、喫煙者や肝機能値に異常のある方、40歳以上の方などにおすすめしたい避妊対策です。
当面、妊娠を考えていない方、なんらかの理由でピルの服用ができない方、生理の量や重い生理痛にお悩みの方、ミレーナ装着にご興味のある方はぜひ当院までお気軽にご相談ください。
ミレーナとは?
ミレーナは、日本では2007年に承認された避妊薬です。
避妊薬といっても内服薬ではなく、ミレーナはT字型(約3cm)をした柔らかいプラスチック製でできている「子宮内避妊具」です。子宮内に留置することにより避妊効果が発揮されるので、別名「避妊リング」とも呼ばれます。
T字の縦部分に含まれている「合成黄体ホルモン(レボノルゲストレル)」が子宮内にゆっくり持続的に放出される「子宮内システム(IUS)」であり、子宮内膜の増殖を抑制します。
ミレーナの期待できる効果
避妊効果
女性の体は月経*1(生理)のサイクルに合わせて、女性ホルモンの作用により子宮内側の粘膜(子宮内膜)の厚さが変化しています。毎月、月経が終わる頃から子宮内膜が増殖して厚くなることで、受精卵を受け入れる準備をしています。
子宮内にミレーナを留置すると、ミレーナに含まれる黄体ホルモンがゆっくりと持続的に放出されるので、子宮内膜の増殖を抑えます。子宮内膜が薄くなるので、受精卵が着床しにくい環境(内膜)となり、妊娠を防ぐ(避妊)効果が期待できます。
さらに、子宮頸管の粘膜を変化させることで、精子が子宮内に侵入するのを防ぐ効果もあります。
*1(参考)月経:生理のこと。医学的な呼び方。女性ホルモンの作用により、通常、一定周期で反復する子宮内膜からの出血。
過多月経・月経困難症の症状緩和
ミレーナ装着により黄体ホルモンが持続的に子宮内に放出されると、子宮内膜の増殖が抑えられ、子宮内膜が薄くなることで、経血量が大幅に減ったり、生理痛が軽減されたりと、生理が楽になります。
(図)ミレーナ装着前と装着後イメージと子宮内膜の様子
ミレーナのメリット
- 子宮内のみに直接作用するので、ピルが服用できない人にも使用可能
ミレーナは子宮内へ留置して使用するので、ミレーナに含まれる黄体ホルモンが子宮内のみに作用します。そのため、血栓症リスクがある方、40歳以上の方、喫煙者(1日15本以上タバコを吸う方)、高血圧の方、肥満の方(BMI30以上)など、低用量ピルが服用できない方に対してもミレーナは装着可能です。 - 最長5年間の効果が期待できる
低用量ピル・ホルモン剤と同じように、避妊や過多月経・月経困難症の症状緩和効果を持つだけでなく、1回の装着で最長5年間の効果を発揮します。
1度装着してしまえば、ピルのように毎日の服用が必要ないので、飲み忘れによる失敗がありません。 - コストパフォーマンスが高い
同じ目的で低用量ピルやホルモン剤を毎日5年間服用した場合と比較すると、ミレーナ装着の方が安価で済みます。
ミレーナのデメリット
- 副作用がみられることがある
ミレーナ装着後、一時的に不正出血・下腹部の違和感・腹痛などの症状が現れることがあります。これらの副作用は、基本的に時間経過とともに落ち着いていくので、過度に心配する必要はありません。
また、月経に次のような変化がみられることもあります。
・出血日数・生理周期の変動
・ 生理時期以外の出血
・ 卵巣のう胞(通常、ホルモン変化に伴う一時的なもの)
ほかに、重篤な副作用として、穿孔(子宮に穴があいてしまうこと)、骨盤内炎症性疾患、異所性妊娠(子宮外妊娠)などがまれに起こる場合もありますので注意が必要です。
上記のような出血や痛み・違和感などの症状が長引いたり強かったりするときには、しっかりと原因を調べ検査しましょう。 - ごく稀に自然に脱出する(外れる)ことがある
国内の臨床試験によると、装着後1年間で約1.5%の方に脱出がみられたと報告されています*2。子宮の形に異常がある、子宮筋腫などを合併している場合には、脱出の頻度が高くなります。
*2(参考)医薬品インタビューフォーム ミレーナ第15版 P.15 - ミレーナを装着できないケースもある
子宮内腔異常・子宮粘膜下筋腫、性感染症などの婦人科疾患がある場合、子宮口が狭い方に使用できないケースもあります。
ミレーナとピルの違い
女性の積極的な避妊方法には、ミレーナとピルが有名です。
ミレーナとピルの違いは、次の通りです。
ミレーナ | 低用量ピル | |
---|---|---|
作用する 女性ホルモン |
黄体ホルモン (プロゲステロン) |
卵胞ホルモン (エストロゲン) + 黄体ホルモン (プロゲステロン) |
薬のタイプ | 子宮内留置 | 内服薬 |
薬の効き方 | 局所 (子宮内のみ) |
全身 |
排卵の有無 | 排卵する | 排卵しなくなる |
特徴 |
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副作用の有無 |
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当院のミレーナ装着の特徴
痛みに配慮したミレーナ装着
一般的に経腟分娩の経験がない方では、子宮口の広がりがないことによって装着時に痛みを感じることがあります。
当院では、できるだけ装着時の痛みが軽減されるよう、事前に「痛み止め」を服用していただいてから、ミレーナを挿入しております。
さらに、ご希望があれば、オプションで「静脈麻酔」下での無痛ミレーナ装着も可能です。
静脈麻酔は、呼吸管理が必要な全身麻酔と比べて、意識レベルを下げて眠った状態となるため、体への負担が少なく済みます。眠っている間にミレーナを装着できるので、経腟分娩の経験がない方・痛みに弱い方におすすめです。
なお、静脈麻酔を使用する場合には、事前に血液検査が必要となりますので、予約制とさせていただいております。ご希望の方は、初診ご予約時にお申し出ください。
診察当日の装着も可能
当院では、初診時に問診・診察・術前検査(内診)を行っております。
迅速クラミジア・淋菌検査にて陰性が確認できましたら、診察日当日の装着にも対応しております。
ご希望の方は、お申し出ください。
ミレーナ装着をおすすめしたい方
- 経産婦の方
- 次の妊娠を希望する時期まで避妊したい方
- 生理痛がひどい方(月経困難症)
- 生理の量が多い方(過多月経)
- ピルが服用できない方
例)ピルが体質的に合わない方、40歳以上の血栓症リスクがある方、肥満の方(BMI30以上)、喫煙者、高血圧の方など
ミレーナ装着の流れ
① ミレーナ相談
当院では、最初にミレーナ装着のメリット・デメリットや施術方法などミレーナ装着に関して、詳しいご説明をさせていただいております。
その際、ご不明点だけでなくご不安に感じていることなどがありましたら、何なりと医師までお話しください。
「ミレーナ装着について、まずは話だけ聞きたい」という方は、お気軽にご相談ください。
また、ご希望がありましたら、ミレーナ相談時に「診察・術前検査(エコー検査・性感染症検査)」を行うことも可能です。お申し出ください。
② 問診・診察(内診)
最終月経・性交経験の有無・妊娠出産歴・病歴などを問診表にご記入いただき、その内容を基に医師による診察を行います。
診察では、次のような検査を行います。
- 超音波検査(エコー検査)
子宮内膜症や子宮筋腫など子宮・卵巣に疾患がないかを確認します。 - 性感染症検査
クラミジア・淋菌などの感染について、腟入り口付近のおりものを採取して調べます。
通常、ミレーナは診察・検査日から数日後の「再診時装着」としていますが、迅速クラミジア・淋菌検査(自費)で陰性が確認できれば、当日ミレーナ装着も可能です(※生理7日以内)。診察当日の装着を希望される場合には、お申し出ください。
③ 【再診時】ミレーナ装着
問診および診察の結果、ミレーナによる効果が期待できると判断された場合は、生理7日以内に子宮内にミレーナを装着します。子宮筋腫や子宮内膜症があるなど、場合により装着できないケースがあります。
痛み対策として、オプションにて「静脈麻酔」下での無痛ミレーナ装着も対応しています。
静脈麻酔は「眠った状態」になるだけの体への負担が少ない麻酔です。
※ただし、静脈麻酔を使用する場合には、事前の血液検査が必要となりますので、「予約制」とさせていただいております。ご希望の方は、事前にお申し出ください
④ ご精算
受付にてご精算をお願いします(現金のみ)。
⑤ 定期検診
装着から約1か月後に経過観察を行いますので、ご来院ください。
ミレーナは装着したら、おしまいではありません。「適切に装着されているか?」がとても重要であり、定期的にミレーナの装着位置や出血状態を確認しています。
通常、装着してから1か月後、3か月後、半年後、以降1年ごとに定期検診を行っております。また、装着後5年を目安に抜去します。
なお、不正出血など副作用がある、疾患フォローが必要な場合には、患者さまに合わせて適切な間隔でフォローさせていただきます。
ミレーナ装着中、違和感など何か気になることがありましたら、お気軽にご相談ください。
ミレーナ装着後の注意点
ミレーナ装着にあたり、次のような注意点があります。
気になることがありましたら、お気軽にご相談ください。
装着から3か月は、一時的な副作用が起こりやすい
個人差はありますが、子宮内に装着してから3か月ほどは、不正出血・下腹部の違和感などの症状を認める方がおられます。特に不正出血の頻度は高く9割以上の方にみられます。ほとんどの場合、少量の出血から茶色のおりものが付着する程度です。
これらの副作用は徐々に改善し、通常3か月以内には消失します。
体がミレーナに慣れるまでの一時的な副作用ですので、基本的には心配ありませんが、異常な痛み・多い出血などがありましたら、すぐにご受診ください。
装着後の定期検診は、最大限の効果を得るために重要
ミレーナを適切に使用していただくためには、装着後の定期検診がとても重要です。
ミレーナには、気づかないうちに位置がずれてしまったり、脱出してしまったりする可能性があります。
※国内の臨床試験では、装着後1年以内の脱出率は約1.7%と報告されています。
また、ごく稀にミレーナが子宮の壁に入り込んで穴が開く「穿孔」などの重大な副作用が起こる可能性も指摘されています。
ミレーナ装着後は、定期検診でミレーナの位置・出血の状況・効果を確認しながら使用することが大切です。さらに、定期的にミレーナの装着状況を確認することは、重大な副作用の発生予防・早期発見にも効果的です。
ミレーナの効果を最大限得るためにも、定期検診をしっかりと受けましょう。
妊娠する可能性はゼロではない
ミレーナは正しく使用すると、1年間の妊娠率は0.2%と高い避妊効果が期待できますが、ミレーナの位置がずれていたりすると妊娠する可能性(子宮外妊娠を含む)があります。
定期的に検査を行い、正しく装着されていることを確認しましょう。
除去用の糸は、絶対に引っ張らない
ミレーナには、取り外す際に用いる糸がくっついているため、ご自身で腟内に手を入れれば除去糸を確認することが可能です。しかし、この除去糸を引っ張るとミレーナの位置がずれたり、外れたりする原因になることがあるため、絶対に引っ張らないでください。
月経(生理)がなくなることがある
ミレーナ装着後、次第に月経回数が減り、装着1年後に約20%の方で月経が起こらなくなるという報告*4があります。
*4(参考)ミレーナをご使用の皆様へ P.4|バイエル薬品
これはミレーナに含まれる合成黄体ホルモン(レボノルゲストレル)の効果により、子宮内膜が厚くならない(=薄くなる)状態となるためです。
その結果、子宮内膜が剥がれる「生理」が起こらなくなります。
この現象は、特に心配する必要はありません。
生理痛が本当にひどい方にとっては嬉しい効果です。
まとめ
ミレーナには、とても高い避妊効果があります。
一度正しく挿入すれば、最長5年間も効果が続くため、コストパフォーマンスが非常に高い避妊方法です。
また、ミレーナに含まれる黄体ホルモンの作用で子宮内膜が薄くなることから、過多月経や月経困難症の方に対する治療としても大変効果的です。
なお、ミレーナを適正に使用するためには、装着後の定期検診がとても大切です。重大な副作用を見逃さないためにも、必ず受診しましょう。
ミレーナというと、「避妊リング」という別名が独り歩きして、これまであまりオープンに話されることが少なかったかもしれません。
しかし、近年、芸能人によるミレーナ装着の公表が増えてきたことで、改めてミレーナの有効性が注目されています。
「望まない妊娠を避けること」「毎月のつらい生理を緩和すること」どちらも女性にとって、QOL(生活の質)に関わる重大な事柄です。
避妊対策や過多月経・重い生理痛などでお悩みの方に対する選択肢の一つとして、是非ミレーナ装着をご検討ください。
ミレーナにご興味がございましたら、お気軽に当院までご相談ください。
診察をご希望の方は、当院の24時間WEB予約かお電話にてご予約ください。
ここからはQ&Aで分かりやすく解説していきます。
Q1.ミレーナを装着するとき、痛みはありますか?
痛みの感じ方には個人差があります。
ただし、経腟分娩の経験があるかによって、ある程度違いがあるかもしれません。
一般的に経産婦の方は、出産によって子宮口がもともと少し開いているため、ミレーナを挿入する際の痛みはあまり強くありません。しかし、帝王切開での分娩をされた方(経腟分娩の経験がない方)、妊娠出産の経験がない方、痛みに弱い方では装着時に苦痛を感じることがあります。
当院では痛み対策として、ミレーナ装着の1時間前に「痛み止め」を服用していただいております。
さらに、経腟分娩の経験がない方や痛みに弱い方に対しては、オプション(予約制)で静脈麻酔下での「無痛ミレーナ装着」を行っています。呼吸管理が必要となる全身麻酔とは異なり、静脈麻酔*5はウトウト眠るタイプの麻酔であり、数分程度眠っている間に痛みや恐怖心を感じることなく装着することが可能です。
*5(参考)静脈麻酔:胃カメラの際にも使用され、自発呼吸が可能な麻酔。眠った状態となるので、痛みや恐怖心などを感じなく施術を受けられる。
Q2.ミレーナはいつから避妊効果がありますか?
装着後、すぐに避妊効果は得られます。
ただし、クラミジア・淋菌・性器ヘルペスなどの性感染症、梅毒やHIV感染を防ぐものではありませんので、ご心配な方は定期的に感染症の検査を受けましょう。
Q3.ミレーナが使えない人はいますか?
次のような症状に一つでも当てはまる方は、原則的にミレーナ装着が行えません。
ただし、場合によって装着できるケースがありますので、お気軽にご相談ください。
- ミレーナに含まれる合成黄体ホルモン(レボノルゲストレル)に過敏症がある
- 診断の確定していない不正出血がある
- 現在妊娠中または妊娠の可能性がある
- 子宮の形・位置に異常がある場合(子宮口の変形がある子宮筋腫を含む)
- 3か月以内に性感染症(性病)と診断された
- 異所性妊娠(子宮外妊娠)を経験したことがある
- 子宮頸管炎・腟炎と診断された
- 重い肝障害・肝腫瘍がある
- 骨盤内炎症性疾患になったことがある
- 子宮内避妊用具装着時などに脈が遅くなる、または失神したことがある
- 3か月以内に子宮内膜炎や感染性流産を経験したことがある
- 性器がん・黄体ホルモン依存症腫瘍を患っている、もしくは疑いがある
Q4.ミレーナ装着後、どのような症状が現れたら受診が必要ですか?
次のような症状がみられたら、すみやかにご受診ください。
- 装着から数か月経過後、月経時期以外の出血が続いている、出血量が増えるなどがみられたとき
- 発熱、下腹部痛、おりものの異常、急な出血、痛み、性交痛、急な膨満感(お腹が張って苦しい感じ)、下腹部痛(圧痛:押すと痛いこと)がみられたとき
- 性交時にパートナーが子宮口の除去糸に触れ、陰茎痛を訴えたとき
また、約500人に1人の割合で稀にミレーナ装着をしていても妊娠することがあります。
次のような症状がみられたら、早期の処置が必要となります。
すぐにご来院下さい。
- 前回の月経から6週間以内に月経が起こらなかったときや、吐き気・嘔吐・食欲不振などの妊娠を疑う兆候がみられる場合
- 下腹部痛を伴う月経の遅れがあるとき、無月経の人で出血が始まったとき
Q5.出産後、いつからミレーナは装着できますか?
分娩後すぐの装着では穿孔や脱出の可能性が高くなるため、子宮の回復(6週間以上)を待ってからの装着が望ましいとされています。
また、母乳による授乳をされている場合、子宮内穿孔リスクが高まるとされています。
そのため、当院では出産してから6か月以降を目安とさせていただいております。
なお、帝王切開による出産や骨盤内手術をされた場合には、術部の回復を確認してからの装着が必要となります。
Q6.ミレーナを装着したまま、CTやMRI検査は受けられますか?
ミレーナは柔らかいプラスチック製なので、CTおよびMRI検査への影響はありません。装着したまま、検査をお受けいただけます。
Q7.ミレーナには使用期限はありますか?
ミレーナは一度の装着で、最長5年間の効果が期待できます。
しかし、必ず5年を超えないうちに、除去もしくは交換する必要があります。
使用期限が近くなると、出血量が増えたり生理痛が起きたり、避妊効果が低下する可能性があります。
そのため当院では、装着後5年目を超えない時期に交換や除去をおすすめしています。