子宮内膜症とは?
子宮内膜症とは、子宮内膜様組織が子宮腔内面以外(異所性)に生じた疾患のことを言います。子宮周囲の卵巣、ダグラス窩(子宮と直腸の間にあるくぼみ)、腹膜などに発生することが多く、特に卵巣に生じた場合には卵巣子宮内膜症性囊胞(チョコレート囊胞)と呼ばれます。
好発年齢と原因
子宮内膜症は20歳代~40歳代にかけて好発します。
原因としては、子宮内膜移植説が有力とされています。これは、子宮内膜剥離組織が月経血とともに卵管を逆行して腹腔内へ流出し、腹膜に生着、増殖するという説です。そのため、早い初経、月経周期の短縮、過長月経・過多月経などがリスク因子とされています。ただし、明確な発生機序については未だ解明されていません。
症状
月経困難症、慢性骨盤痛、性交痛、排便痛、不妊が主症状です。月経を重ねるごとに増強する月経痛は特徴的です。その他に過多月経や不正性器出血などもみられることがあります。これらの症状がある方は、お早めに当院へご相談ください。
子宮内膜症の種類
子宮内膜症は主に3つの主要な病態と稀少部位子宮内膜症に分けられます。
卵巣子宮内膜症性囊胞(チョコレート囊胞)
卵巣内に発生した子宮内膜様組織により、月経のたびに赤血球の滲出、貯留が起こり、卵巣が腫大してしまう病態です。チョコレート嚢胞とも呼ばれます。卵巣が腫大し破裂や感染をきたしたり、周囲の臓器(子宮、卵管、腸など)と癒着し骨盤痛の原因や不妊の原因になります。さらに40歳以上の方や大きさが10cmを超えるような方、あるいは急速な増大を認める方では、卵巣がんの合併率が高くなるため、組織学的検索を目的とした卵巣摘出術も考慮する必要があります。一般的にチョコレート囊胞から卵巣がんが発生する頻度は0.7%程度と推定され、50歳以上では有意に頻度が上昇することが報告されています。非常に注意が必要な病態です。
ダグラス窩閉塞
子宮後壁と直腸の癒着により子宮が後屈し、ダグラス窩(子宮と直腸の間にあるくぼみ)が閉塞している病態です。特に慢性的な骨盤痛や性交痛、排便痛などきたします。
腹膜病変
腹膜にできた子宮内膜様組織から微小な水疱が出現し、血管増生による点状出血(新しい血のかたまりができて見た目は赤色)をきたし、それがヘモジデリン沈着(古くなった血のかたまりで見た目は黒色)し、最後は線維化し(瘢痕化し見た目は白色)、周囲の組織と癒着してしまいます。ひとつひとつの病変自体は非常に小さいため、超音波検査では認識が難しく、腹腔鏡検査や手術の際に認識されます。
稀少部位子宮内膜症
子宮内膜症は、骨盤内のほかに、小腸、膀胱、尿管、虫垂、臍部、鼠径部、胸膜、肺、横隔膜などに発生することがあり、これらを稀少部位子宮内膜症といいます。小腸では下血、膀胱や尿管では血尿・頻尿・尿管閉塞、臍部や鼠径部では疼痛・出血、胸膜や肺や横隔膜では喀血・月経随伴性気胸(月経時に反復性に発生する気胸)などを呈します。
検査方法
月経困難症や慢性骨盤痛、性交痛や排便痛などの症状、内診、超音波検査により診断します。
特にチョコレート囊胞では悪性を含む多様な卵巣腫瘍との鑑別が必要になりMRI検査を行います。また腫瘍マーカー(CA125)を測る場合もあります。確定診断は手術等で病変を直接視認する必要がありますが、侵襲的な検査となるため、通常は臨床的に子宮内膜症の診断をし、治療介入を行います。生理痛に対して漫然と鎮痛剤で対応してしまい子宮内膜症などの病態を見逃してしまわないよう、症状がある場合には早めの検査を受けましょう。
性交渉の経験がない方は、基本的に経腹超音波検査(お腹の上から超音波検査)を行います。場合によっては経直腸超音波検査(おしりから超音波検査)を行うこともあります。
治療方法
月経困難症や慢性骨盤痛、性交痛や排便痛、不妊などの症状や画像上チョコレート嚢胞を認める場合に治療の対象となります。ピル、ジエノゲスト(黄体ホルモン製剤)、ミレーナ(レボノルゲストレル放出子宮内システム)、レルミナ(GnRHアンタゴニスト)、リュープリン(GnRHアゴニスト)等による薬物療法や病変摘出による手術療法がありますが、いずれの治療法も再発率が高く、閉経期までの長期の管理が必要です。さらに閉経後も病変が残っている場合には悪性化なども考慮し、定期的な検査が必要となります。
当院では、患者様にあった最適な治療方法を選択し、一緒に症状の改善を目指します。
診察をご希望の方は当院の24時間WEB予約かお電話にてまずはご相談ください。
妊娠を希望する場合には?
基本的に子宮内膜症の治療とは、生理を来させないようにする、あるいは生理の量を減らすことが前提となっています。そのため排卵がおこりません。もし妊活をご希望されている場合には、休薬と鎮痛剤による対処療法が基本的治療となります。そして、子宮内膜症の存在が不妊の原因であることを疑うケースでは、手術を考慮する場合があります。
治療はいつまで続けるべき?
子宮内膜症はエストロゲン(女性ホルモン)依存性に増殖する疾患であるため、基本的には閉経(生理がなくなる)を迎えると、自然に症状も消失し、治療の必要性はなくなります。ただし、癒着した病変は閉経後も消失しないため慢性的な骨盤痛や性交痛や排便痛などの症状は続く可能性があり、またチョコレート嚢胞では悪性化のリスクもあるため、手術を考慮するケースがあります。
手術後の再発予防の重要性
特に若年患者に保存的手術(子宮内膜症病変の切除)を行った場合、再発・再手術やそれに伴う卵巣機能の低下を避けるため、術後の薬物療法による再発防止は極めて重要になります。ピルを術後12か月以上用いた研究では、術後無治療の場合の再発率がおよそ34%(95%CI:29~40%)であるのに対し、ピルを継続投与した場合には再発率はおよそ8%にとどまっており、再発を劇的に減らすことが示されています。そのため術後すぐに挙児を希望しない場合には、術後薬物療法を開始し再発予防に努めましょう。
ここからはQ&Aで分かりやすく解説していきます。
Q1.子宮内膜症とはどのような疾患ですか?
子宮内膜症とは、子宮内膜様組織が子宮腔内面以外(異所性)に生じた疾患のことを言います。子宮周囲の卵巣、ダグラス窩(子宮と直腸の間にあるくぼみ)、腹膜などに発生することが多く、特に卵巣に生じた場合には卵巣子宮内膜症性囊胞(チョコレート囊胞)と呼ばれます。発生した部位により、様々な症状を呈します。
Q2.どのような症状がありますか?
月経困難症、慢性骨盤痛、性交痛、排便痛、不妊が主症状です。月経を重ねるごとに増強する月経痛は特徴的です。その他に過多月経や不正性器出血などもみられることがあります。これらの症状がある方は、お早めに当院へご相談ください。
Q3.治療にはどのようなものがありますか?
ピル、ジエノゲスト(黄体ホルモン製剤)、ミレーナ(レボノルゲストレル放出子宮内システム)、レルミナ(GnRHアンタゴニスト)、リュープリン(GnRHアゴニスト)等による薬物療法や病変摘出による手術療法がありますが、いずれの治療法も再発率が高く、閉経期までの長期の管理が必要です。さらに閉経後も病変が残っている場合には悪性化なども考慮し、定期的な検査が必要となります。